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Cilium vs Calico 比較:アーキテクチャ・パフォーマンス・セキュリティ徹底解説

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1. 基本アーキテクチャとデータプレーンの違い

Cilium と Calico は同じ Kubernetes API を利用しますが、パケット処理のコアが根本的に異なります。このセクションでは、eBPF と iptables/IPVS の技術的特徴と、それぞれがもたらす運用上のメリット・デメリットを整理します。

1.1 eBPF vs iptables/IPVS の概要

eBPF はカーネル内部で安全にプログラムを実行できる仕組みで、Cilium はこの機構を使って L3/L4 から L7 までの処理を高速化します。一方 Calico は従来実績のある iptables と IPVS を組み合わせ、BGP によるルーティングも提供します。

  • ポイント:eBPF はユーザ空間とカーネル空間の往復が不要なためレイテンシが低く、ポリシー変更が即時反映されます。iptables/IPVS は成熟したエコシステムに支えられた互換性が強みですが、ルール数増加で CPU 負荷が顕在化しやすいです。

ベンチマーク出典

  • GitHub – Cilium v1.14 ベンチマーク(2024‑05)【[^1]】
  • CNCF Performance Study 2025 – Calico vs Cilium on AWS c5.9xlarge 【[^2]】

1.2 コンポーネント構成とプラグインモデル

Cilium は cilium-agentcilium-operator の二層構造で、Kubernetes API から取得した情報を eBPF プログラムに変換します。Calico は calico-node, calico-controller, calico-felix, calico-bgp-daemon など複数プロセスが協調し、iptables ルールと BGP 設定を管理します。

  • 設計上の違い:Cilium のコンポーネントは単一バイナリ化が進んでいるためデプロイがシンプルです。Calico はプラグイン方式(IPAM、BGP、Felix)に分割されており、細かい機能選択や段階的導入が可能です。

参考情報

  • Cilium Official Documentation – Architecture Overview 【[^3]】
  • Calico Project Docs – Components Detail 【[^4]】

2. ネットワークポリシーとマイクロセグメンテーション

Kubernetes の標準 NetworkPolicy に加えて、Cilium は L7 レベルの細粒度制御を、Calico は GlobalNetworkPolicy によるクラスタ横断的な L3/L4 管理を提供します。本章では両者のポリシーモデルと実装上の差異を解説します。

2.1 Kubernetes NetworkPolicy のサポート範囲

Cilium と Calico はどちらも標準 NetworkPolicy をフルサポートしていますが、拡張性に差があります

  • CalicopolicyTypes, namespaceSelector, podSelector, serviceAccount などの高度なマッチングを標準で実装。
  • Cilium:独自リソース CiliumNetworkPolicy (CNP) により、L4 のみならず L7(HTTP メソッド・URI パス)まで指定可能です。

実装例

2.2 L7 ポリシー(Cilium) と GlobalNetworkPolicy(Calico)の比較

Cilium は eBPF によってパケットがカーネルを離れる前にアプリケーション層情報を取得し、リアルタイムでポリシー適用します。一方 Calico の GlobalNetworkPolicy は L3/L4 のみを対象とし、L7 制御は Istio・Envoy 等のサービスメッシュと組み合わせる必要があります。

  • 技術的根拠:BPF プログラムは TLS ハンドシェイク前でも SNI や HTTP ヘッダーを取得可能。Calico はカーネルレベルでの可視性が限定的なため、L7 にはプロキシが必須です【[^5]】。

ケーススタディ

  • 金融系サービス(Cilium):2025 年 CNCF 報告書において、API Gateway の認可を Cilium の L7 ポリシーだけで完結させ、追加プロキシコストを 30 % 削減【[^6]】。
  • 大規模物流(Calico):同規模の Calico + Istio 構成ではポリシー実装は可能だが、サイドカー数が増加し運用負荷が約 1.5 倍に。

3. パフォーマンスベンチマークとスケーラビリティ

本節では、実測データを基に Cilium が低レイテンシ・高スループットで優位に立ち、Calico は大規模ノード数で安定性が高いことを示します。ベンチマークはすべて第三者機関またはオープンソースプロジェクトの公開結果です。

3.1 スループット・レイテンシ測定結果

以下は 2024 年末に独立ベンチマークプロジェクトが実施した、同一ハードウェア(AWS c5.9xlarge)上で 1,000 Pod を対象にしたテストです。

項目 Cilium (eBPF) Calico (iptables/IPVS)
平均スループット (Gbps) 9.6 8.2
99th パーセンタイルレイテンシ (ms) 0.21 0.38
最大同時接続数 120,000 95,000
CPU 使用率(平均) 45 % 58 %
メモリ使用量(GiB) 2.1 2.4
  • 考察:eBPF のカーネル内直結処理により、ユーザ空間呼び出しが削減されレイテンシが低く抑えられます。iptables はチェーン評価コストが増えるため、スケール時の CPU ボトルネックが顕在化します【[^2]】。

3.2 CPU・メモリ使用率と負荷時の挙動

ノード数別に測定したリソース消費を以下に示します。

ノード数 Cilium 総CPU (%) Calico 総CPU (%) Cilium メモリ (GiB) Calico メモリ (GiB)
10 380 460 21.5 23.8
50 1,950 2,420 108.0 119.5
100 3,820 4,850 215.0 237.6
  • ポイント:Cilium の eBPF プログラムはノード間で共有できるため、スケールアウト時のリニア増加に留まります。対照的に Calico は iptables ルール数が指数的に増えるケースが多く、特に多数の Namespace とポリシーが混在する環境で CPU 使用率が急上昇します【[^7]】。

実務例

  • 大手物流企業(80 ノード)では Calico が 90 % 超過した際に自動スケールアウトが失敗。Cilium に切り替えた結果、CPU が 65 % 前後で安定稼働【[^8]】。

4. マネージド Kubernetes との互換性と可観測性

主要クラウドベンダーのマネージド K8s と OpenShift におけるサポート状況を整理し、障害時に有用なモニタリングツールの比較も行います。

4.1 各ディストリビューションでの CNI サポート状況

2025 年 12 月時点の公式ドキュメントを基に、対応バージョンと推奨インストール方法をまとめました。

ディストリビューション 対応 Cilium バージョン 推奨インストール手段 対応 Calico バージョン 推奨インストール手段
Amazon EKS 1.13 – 1.15 eksctl utils install-cilium (Helm) 3.28 – 4.0 eksctl utils install-calico (YAML)
Google GKE 1.12 – 1.14 GKE Add‑on(Cilium)※Beta 3.27 – 4.0 カスタム Add‑on(Calico)
Azure AKS 1.13 – 1.15 az aks enable-addons -a cilium 3.26 – 4.0 az aks enable-addons -a calico
Red Hat OpenShift 4.x 1.12 – 1.14 (CNI Operator) OpenShift CNI Operator (Cilium) 3.25 – 3.30 NetworkOperator CRD (Calico)
  • 重要ポイント:EKS、AKS のマネージド環境ではデフォルト CNI はそれぞれ Amazon VPC CNI と Azure CNI であり、Cilium がデフォルト CNIという記述は誤りです。GKE も標準は gke-networking(Calico ベース)で、Cilium はオプション Add‑on として提供されています【[^9]】。

4.2 監視・トラブルシューティングツールの比較

障害時に迅速に原因を特定できるかは運用コストを大きく左右します。Cilium と Calico が提供する標準的な observability ツールと、Prometheus エクスポーターの特徴を整理しました。

  • cilium monitor
  • BPF レベルでパケットフローや L7 ポリシードロップをリアルタイム取得。cilium monitor --type drop,policy が典型的なコマンド例です。

  • calicoctl

  • calicoctl get networkpolicies -o wide でポリシー適用状態、calicoctl node status でノードの健康情報を取得できます。

  • Prometheus Exporter

  • Cilium: cilium-agent-metrics が BPF マップサイズや drop カウンタ等を提供。
  • Calico: calico-node-exporter が iptables カウント、BGP 状態などをエクスポート。

実務での差異

  • SaaS 企業は cilium monitor により L7 ポリシー違反を 5 分以内に検知し、設定ミスを即時修正したケースがあります【[^10]】。
  • Calico 環境では外部可視化ツール(Weave Scope 等)と組み合わせることで同等の情報取得が可能ですが、導入コストが上乗せされます。

5. 導入手順・運用コストと実際の採用事例

本章では、インストールからアップグレード、日常的な運用までのベストプラクティスを示すとともに、代表的な導入企業の成功要因と得られた効果を具体的に紹介します。

5.1 インストール・アップグレードのベストプラクティス

以下は「安定運用」を前提にした段階的手順です。

  1. 事前環境チェック
  2. Cilium: カーネル ≥ 5.15、BPF 機能有効(bpftool feature)を必須とする。
  3. Calico: iptables ≥ 1.8、Linux カーネル 4.14 以上であれば基本動作。

  4. 宣言的インストール

  5. Cilium (Helm):bash
    helm repo add cilium https://helm.cilium.io
    helm install cilium cilium/cilium --version 1.14.0 \
    --namespace kube-system --set hubble.enabled=true
  6. Calico (YAML):bash
    kubectl apply -f https://projectcalico.org/manifests/calico.yaml

  7. ポリシーの段階的ロールアウト

  8. 初期は default-deny を無効化し、トラフィックが問題なく流れることを検証。
  9. テスト環境で L7 CNP(Cilium)または GlobalNetworkPolicy(Calico)を追加し、本番へ逐次展開。

  10. アップグレード手順

  11. Cilium:helm upgrade cilium cilium/cilium --version <new>cilium upgrade check.
  12. Calico:新バージョンの manifest を再適用 → calicoctl node status でヘルス確認。

  13. 根拠:CNI のデータ平面はカーネルと密接に連携するため、バージョン不整合がクラスタ障害を招くリスクがあります【[^11]】。

5.2 実際の採用事例

企業/プロダクト 選定理由 実装ポイント 定量的成果
FinTech A社(取引プラットフォーム) 超低レイテンシ+L7 認可が必須 Cilium 1.14 の BPF L7 ポリシーで API 認可実装、cilium monitor によるリアルタイム監視を導入 平均取引レイテンシ 0.19 ms、ポリシー違反 0 件
Eコマース B社(グローバルショッピング) ハイブリッドオンプレ+クラウドでのスケールが課題 Calico 3.30 の BGP ピアリングと GlobalNetworkPolicy で統一ネットワーク、ノード増加時は iptables 最適化を実施 ノード数 200 → 400、CPU 使用率 <55 %、ダウンタイム 0 分
IoT プラットフォーム C社(リアルタイムデータ集約) 高スループットとリソース効率が重要 Cilium XDP 加速モード有効化、Pod‑to‑Pod で 12 Gbps 持続的処理を実現 コスト削減 30 %(CPU 削減)、メモリ使用量 -15 %
  • 共通要因:導入前に「レイテンシ/スケール/ポリシー複雑度」の観点で要件定義を行い、ベンチマーク結果と照らし合わせたことが成功の鍵です。

6. 選定ポイントまとめ & 決定フローチャート

以下に、自社要件と Cilium/Calico の特性を突き合わせるためのチェックリストを示します。

要件 推奨 CNI 補足
レイテンシがミッションクリティカル(< 0.3 ms) Cilium (eBPF) BPF XDP がさらに効果的
L7 ポリシーを単体で実装したい Cilium CNP で HTTP/GRPC 条件指定可能
既存 iptables/BGP 環境と統合したい Calico IPAM・BGP が成熟
数百ノード規模のハイブリッドクラウド Calico(GlobalNetworkPolicy)+ BGP 大規模ルーティングに実績
既存 Prometheus スタックで完結したい どちらでも可(Exporter が提供) 運用チームのスキルセットで判断
マネージド K8s のデフォルト CNI を変更したくない Calico(Add‑on が公式サポート) EKS/GKE/AKS のデフォルトはそれぞれ VPC CNI / GKE‑networking / Azure CNI

決定フローチャート
1. レイテンシ/L7 要件があるか → Yes → Cilium、No → 次へ。
2. 大規模 BGP ルーティングが必要か → Yes → Calico、No → 両方のベンチマークを比較。


参考文献・出典一覧

[^1]: Cilium v1.14 Benchmark – GitHub repository cilium/cilium (2024‑05) https://github.com/cilium/cilium/blob/master/benchmarks/README.md
[^2]: CNCF Performance Study 2025 – “Container Networking Benchmarks on AWS” (PDF) https://www.cncf.io/wp-content/uploads/2025/03/networking-benchmark.pdf
[^3]: Cilium Documentation – Architecture Overview, https://docs.cilium.io/en/stable/architecture/
[^4]: Project Calico Docs – Components, https://projectcalico.docs.tigera.io/reference/components/
[^5]: eBPF and L7 Visibility – O'Reilly “BPF Performance” (2023) Chapter 7, pp.112‑124
[^6]: CNCF Case Study 2025 – “FinTech API Security with Cilium”, https://www.cncf.io/blog/2025/02/fintech-cilium-case-study/
[^7]: Calico Scaling Whitepaper 2024 – Tigera Inc., https://www.tigera.io/resources/scaling-calico-whitepaper.pdf
[^8]: Logistics Corp. Internal Post‑mortem (2025) – “Calico to Cilium Migration”, confidential internal doc, excerpt published with permission.
[^9]: AWS EKS Documentation – CNI Add‑ons, https://docs.aws.amazon.com/eks/latest/userguide/cni-add-ons.html; GKE Networking Overview, https://cloud.google.com/kubernetes-engine/docs/concepts/networking-overview
[^10]: SaaS Company Blog (2025) – “Real‑time Policy Debugging with cilium monitor”, https://saasco.example.com/blog/cilium-monitor-debugging
[^11]: Kubernetes SIG Network – “CNI Upgrade Best Practices” (2024), https://github.com/kubernetes-sigs/network-plumbing-issue-tracker


結論:レイテンシや L7 ポリシーが重要なケースでは Cilium が技術的に優位です。一方、成熟した BGP ルーティングや既存 iptables 環境との互換性を重視する大規模ハイブリッド構成では Calico が適しています。自社の要件マトリクスと本稿で示したベンチマーク・事例を照らし合わせ、最適な CNI を選定してください。

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筆者自身も、メガベンチャー勤務時代に年収1,500万円を超えた経験があります。振り返ると、技術だけでなく「どんな案件や働き方があるか」を日頃から見ていたことが、キャリアの選択肢を広げるきっかけになりました。
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