Contents
Entra ID の MFA 基本概要とライセンス体系
Entra ID(旧 Azure AD)では、すべてのテナントに 基本 MFA が無料で提供されています。ここでは「コード入力」や「プッシュ承認」といったシンプルな多要素認証が利用可能です。一方、条件付きアクセスやリスクベース認証などの 高度 MFA は有料ライセンス(Azure AD Premium P1 / P2)でのみ有効になります。本稿では最新料金情報を確認したうえで、各プランの機能と導入シナリオを整理します。
基本 MFA と高度 MFA の違い
基本 MFA はサインイン時にユーザーが 認証コードまたはプッシュ通知 を求められるだけの仕組みです。高度 MFA では、アクセス条件やリスク評価に応じて自動的に MFA が要求される といった柔軟な制御が可能になります。これにより、管理者はポリシー単位で認証フローを最適化でき、セキュリティとユーザー体験のバランスを取れます。
プラン別 MFA 機能比較
本セクションでは、2026‑06 時点で公式に公表されている料金と機能を基に、Free、P1、P2 の3プランを比較します。価格は 年次契約 前提です(※最新情報は Microsoft Entra の価格ページをご確認ください)。
| 機能項目 | Free(無料) | Azure AD Premium P1 | Azure AD Premium P2 |
|---|---|---|---|
| 基本 MFA(コード・プッシュ) | ✅ | ✅ | ✅ |
| 条件付きアクセスによる MFA 強制 | ❌ | ✅ | ✅ |
| シンプルなリスクベース認証(サインインリスク評価) | ❌ | ✅ | ✅ |
| Identity Protection(リスク自動ブロック・ユーザーリスクレポート) | ❌ | ❌ | ✅ |
| カスタム MFA ポリシー(デバイス、場所、アプリ別制御) | ❌ | ✅ | ✅ |
| SMS / 音声通話など従量課金オプション | 💲(従量課金) | 💲(従量課金) | 💲(従量課金) |
ポイントまとめ
- Free – 追加費用はかからないが、ポリシーでの細かな制御は不可。
- Premium P1 – 条件付きアクセスと基本的なリスク評価が利用可能で、部門やロケーション単位の MFA ポリシーを GUI で作成できる。
- Premium P2 – Identity Protection がフル装備され、サインイン・ユーザーリスクに応じた自動ブロックとレコメンデーションが提供される。
最新料金(2026‑06)
Premium P1:月額 6 USD / ユーザー(年次契約)
Premium P2:月額 9 USD / ユーザー(年次契約)
* SMS 送信料は米国で $0.01/件、音声通話は $0.02/分 など、従量課金の単価は地域ごとに異なります。
組織規模・業種別導入シナリオとおすすめプラン
SMB(中小企業)向けシナリオ
中小企業では予算抑制が重要です。このため Free → P1 の段階的移行が一般的です。
初期フェーズ:Free の基本 MFA を全員に適用
Free プランの基本 MFA を有効化し、認証手段は Microsoft Authenticator アプリ に統一します。SMS や音声通話は従量課金になるため、必要最小限だけ有効化してください。
拡張フェーズ:P1 ライセンスで条件付きアクセスを導入
部門ごとに「外部ネットワークからのサインイン時は MFA 必須」などのポリシーを作成します。P1 があれば Azure ポータル上で GUI 設定が可能となり、運用負荷が大幅に削減されます。
コスト感(目安)
- 従業員 80 名、P1 を全員に付与した場合の年間費用は ≈ 57,600 USD(80 × 6 USD × 12)。
- SMS/音声通話を月 500 件程度利用すると、従量課金は 約 5 USD 程度に抑えられます。
エンタープライズ(大企業)向けシナリオ
金融・医療など規制が厳しい業種では、Identity Protection を含む Premium P2 が推奨されます。
高度リスク管理の実装例
- サインインリスクスコアが「高」以上の場合は自動的に MFA 要求 + アカウントロック。
- デバイスリスクが検出された場合、条件付きアクセスポリシーで 非許可デバイスからのアクセスをブロック。
統合レポートと監査対応
P2 ではユーザー・デバイスリスクのダッシュボードが利用でき、コンプライアンス報告書の自動生成機能も備わっています。これにより内部監査や外部審査への準備時間を短縮できます。
コスト感(目安)
- 従業員 5,000 名で P2 を全員に付与した場合、年間ライセンス費用は ≈ 540,000 USD(5,000 × 9 USD × 12)。
- リスクベースブロックによって年平均 30 件のフィッシングインシデントが防止できたと仮定し、1 件あたり損失額を 20,000 USD とすると、削減効果は ≈ 600,000 USD に達します。
MFA 設定手順と条件付きアクセス連携のポイント
手順概要(全体フロー)
以下の流れで基本 MFA の有効化から、条件付きアクセスポリシーの作成・適用までを行います。P1 以上が必要なステップは明示しています。
1. Azure portal にサインインし、Entra ID → セキュリティへ移動
Azure ポータルで左側メニューから Microsoft Entra ID を選択し、続いて セキュリティ → 認証方法 にアクセスします。
2. 基本 MFA の有効化
対象ユーザーまたはグループを選び、「多要素認証の要求」を オン にします。Free プランでもこの操作だけで基本 MFA が適用されます。
3. 条件付きアクセスポリシーの作成(P1 必須)
条件付きアクセスは Azure AD Premium P1 があれば利用可能です。以下に具体的な要件を示します。
| 項目 | 設定例 |
|---|---|
| 対象ユーザー/グループ | 全社ユーザー、もしくは管理者ロールメンバー |
| クラウドアプリケーション | Office 365、Azure Portal など保護対象 |
| 条件(サインイン場所) | 信頼できない IP 範囲 を除外し、それ以外は MFA 必須 |
| 条件(デバイスプラットフォーム) | iOS・Android のモバイル端末は追加承認を要求 |
| アクセス制御 | ✅ 多要素認証を要求、必要に応じて ❌ ブロック も設定 |
4. 従量課金 MFA 方法の有効化とコスト管理
SMS や音声通話は従量課金対象です。利用頻度が高くなるとコストが膨らむため、ポリシーで「SMS は緊急時のみ」 といった制限を設けることを推奨します。
5. ポリシー適用前の検証(必須)
条件付きアクセスポリシーは 「レポート → 条件付きアクセスのシミュレーション」 で事前にテストできます。特に管理者アカウントが除外されていないか確認し、ロックアウトを防止してください。
注意点とベストプラクティス
- 除外ユーザーのチェック – ポリシー適用後に管理者がサインインできなくなるケースは多発します。必ず「除外」設定で管理者アカウントを保護してください。
- 認証方法の優先順位 – ユーザーエクスペリエンスを考慮し、プッシュ承認(Authenticator)をデフォルトにし、SMS/音声はバックアップとして限定的に有効化します。
- リスクレベル設定(P2) – Identity Protection のリスクレベルは「低」→「中」→「高」の 3 段階で構成されます。導入初期は「中」までの自動ブロックを有効にし、運用実績に応じて「高」へ拡張すると安全です。
コスト効果・ROI 比較と導入判断指標
費用対効果の評価フレームワーク
以下の計算式で、ライセンス費用に対するインシデント削減効果を定量化できます。実際の数値は自社の過去データや業界ベンチマークを元に置き換えてください。
| 項目 | 計算式例 |
|---|---|
| 年間ライセンス費用 | ユーザー数 × 月額料金(USD) × 12 |
| インシデント削減コスト | (過去平均インシデント件数 ÷ 年) × 1 件あたりの損失額 |
| ROI (%) | [(インシデント削減コスト – ライセンス費用) ÷ ライセンス費用] × 100 |
実務ケース(仮想)
- 従業員 500 人、Premium P1 導入
- 年間ライセンス費用 = 500 × 6 USD × 12 ≈ 36,000 USD
- フィッシング被害年平均 4 件、1 件あたり損失額 20,000 USD → 削減コスト 80,000 USD(全件防止と仮定)
-
ROI =
[(80,000 – 36,000) / 36,000] × 100 ≈ 122% -
従業員 3,000 人、Premium P2 導入
- 年間ライセンス費用 = 3,000 × 9 USD × 12 ≈ 324,000 USD
- Identity Protection によるインシデント削減効果を 150 件/年、1 件あたり損失額 15,000 USD とすると、削減コストは 2,250,000 USD。
- ROI =
[(2,250,000 – 324,000) / 324,000] × 100 ≈ 594%
導入判断の指標
| 判定項目 | 推奨プラン |
|---|---|
| 最低限の MFA が必要(コード・プッシュのみ) | Free |
| 条件付きアクセスで部門別制御 | Premium P1 |
| リスクベース自動ブロックやコンプライアンスレポートが必須 | Premium P2 |
| 予算がユーザーあたり月額 6 USD 未満 | Free → 段階的に P1 |
| 過去インシデント頻度が高い/規制要件が厳しい | Premium P2(ROI が最も高くなる傾向) |
まとめ:MFA 導入のベストアプローチ
- Free の基本 MFA を全員に即時適用し、認証手段は Authenticator に統一。
- 条件付きアクセスが必要になったら Premium P1 を導入し、ポリシーを GUI で作成・管理。
- 金融・医療など高リスク業界では Premium P2 の Identity Protection が ROI 向上の鍵となります。
- 従量課金の SMS / 音声通話はコストが膨らみやすいので、ポリシーで使用条件を限定し、定期的にレポートで利用状況をモニタリングしてください。
これらのステップと指標を活用すれば、組織規模や業種に合わせた最適な MFA 戦略を構築でき、セキュリティリスクとコストの両面で最大効果を得られます。