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1. 法改正の全体像と実務への影響
主要な変更点(2026 年施行)
| 改正項目 | 内容 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 厚生労働省令第 37号 (2026‑04‑01 公布) |
SES 型常駐サービスを「業務委託」だけでなく、一定条件下では 労働者派遣 とみなす旨を明文化。指揮命令系統と報酬形態が判断基準になる。 | 発注側はエンジニアの勤怠・作業ログを 3 年間 保存し、適切に管理する体制を整える必要があります。 |
| 労働者派遣法第 40 条の 2(2026‑02‑15 改正) | 「実態重視」評価基準を導入し、契約書だけでなく「指揮命令権」「成果物責任」「報酬支払方法」の三要素で偽装請負か否かを判断。 | 契約書作成時にこれらの項目が どちら側に属するか を明示し、実務でも矛盾が出ないように運用します。 |
| 罰則強化 | 偽装請負と認定された場合の過料上限を 1,000 万円以下 に引き上げ、是正計画提出義務を付加。 | リスク管理の重要性が増すため、コンプライアンス体制の強化が必須です。 |
ポイント:法改正は「書面」だけでなく「実務の姿勢」を問う方向へシフトしています。契約書と日常業務の両方を見直すことがリスク回避の鍵です。
2. SES 常駐と請負・準委任の違い(分かりやすく比較)
| 項目 | SES 常駐(実務上は派遣に近い) | 請負 | 準委任 |
|---|---|---|---|
| 指揮命令権 | 発注企業が作業場所・時間を指定し、日々の指示も行う。 | 受託側が自己管理し、成果物に対してのみ指示可能。 | 基本は受託側が主体的に進めるが、重要な方針変更は発注者の承認が必要。 |
| 成果物責任 | 原則なし(時間単価で報酬)。成果物があっても検収は任意。 | 成果物・納期・品質を受託側が保証。 | 業務遂行義務はあるが、必ずしも成果物の納品を求めない。 |
| 報酬形態 | 時間単価/日単価+残業代。 | 完成基準の総額契約(マイルストーン払い等)。 | 作業時間に実費を上乗せした形が多い。 |
| リスク分担 | 労務管理は発注側、技術指導は受託側。 | すべて受託側が負う(遅延・不具合等)。 | 作業遅延や品質問題は双方で協議し、リスクを共有。 |
| 法的取扱い | 派遣法適用の可能性大(37号告示参照)。 | 民法上の請負契約。 | 民法上の準委任契約。 |
実務ヒント:SES 契約書に「指揮命令権は〇〇社が行使」「報酬は時間単価+残業代」と明記し、さらに 勤怠管理ツールで作業ログを自動取得 すれば、派遣法適用リスクを低減できます。
3. 偽装請負の典型シナリオと判断基準
よくあるケース(実務上の落とし穴)
- 日々のタスク指示が発注側に集中
- 発注側が作業開始・終了を管理し、進捗報告も受け取る。
- 報酬が完全に時間単価のみ
- 成果物や納期に対する責任が契約書に記載されていない。
- SOW(作業指示書)で細部まで指定
- 「何を、いつまでに」まで詳細に指示し、変更は全て発注側の承認必須。
2026 年判例が示す「実態重視」の3本柱
| 判断要素 | 評価ポイント(具体例) |
|---|---|
| 指揮命令権 | 発注側が作業開始・終了、進捗確認を行うか。 |
| 作業管理体制 | 勤怠ログや作業報告書の保存義務が発注側にあるか。 |
| 報酬形態 | 時間単価+残業代だけで、成果物ベースの報酬が付随しないか。 |
実務対策:上記3要素を「チェックリスト化」し、プロジェクト開始時に必ずレビューする体制を整えましょう。
4. SES 契約で最低限盛り込むべき12項目チェックリスト
| No. | 条項 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 1 | 業務範囲 | 対象システム・機能、期間、担当者を具体的に記載。 |
| 2 | 報酬・精算方法 | 時間単価・残業単価、請求サイクル(月次/週次)を明示。 |
| 3 | 成果物責任 | 成果物がある場合は納品基準と検収手順を規定。 |
| 4 | 知的財産権帰属 | 開発コード・ドキュメントの所有権(原則発注側)。 |
| 5 | 機密保持(NDA) | 情報取扱範囲、漏洩時の罰則を具体化。 |
| 6 | 勤怠・作業ログ設計 | 使用ツール、保存期間(最低3年)を明示。 |
| 7 | 監査権限 | 発注側が随時監査できる旨と手順。 |
| 8 | 変更管理 | SOW 変更時の合意フロー・費用調整方法。 |
| 9 | 契約期間・更新 | 終了条件、更新手続きの期限を規定。 |
| 10 | 解除条件 | 偽装請負疑義等重大違反時の即時解約権。 |
| 11 | 損害賠償上限 | 賠償責任額の上限(例:契約金額の2倍)。 |
| 12 | 紛争解決手続き | 管轄裁判所・仲裁機関、協議期間を規定。 |
活用法:ドラフト作成時にこの表を印刷し、法務・プロジェクトマネージャーが交互にチェック。抜け漏れは必ず修正します。
5. 証拠保存のベストプラクティスとテンプレート例
証拠保存手順(実務フロー)
- チャット履歴
- Slack/Teams の自動エクスポート機能で月次バックアップ。CSV または JSON 形式で社内サーバに保管し、検索可能にする。
- 勤怠管理ツール(Clockify・Toggl 等)
- API 連携でデータベースへ保存。変更履歴も同時に取得し、改ざん防止。
- 作業記録(Jira)
- チケットのステータス遷移とコメントを PDF 化し、法務部が管理。
- 契約文書・署名
- DocuSign 等でタイムスタンプ付き電子署名を付与し、改ざん防止。
契約テンプレート例(5 種類)
| テンプレート | 主な用途 | 必須条項の抜粋 |
|---|---|---|
| SES 常駐(準委任) | エンジニア常駐派遣 | 「指揮命令権は〇〇社が行使」「報酬は時間単価+残業代」 |
| 請負契約 | 成果物納入型プロジェクト | 「成果物の検収基準」「完成時一括支払」 |
| 準委任(業務サポート) | コンサルティング・保守 | 「作業時間上限設定」「途中解約時の費用精算」 |
| NDA | 情報共有前提 | 「漏洩時の損害賠償は実損額+逸失利益」 |
| 監査合意書 | 定期的な作業レビュー | 「発注側監査権限」「是正義務」 |
実務上のコツ:すべてのテンプレートで 「指揮命令権の所在」 と 「報酬形態」 を必ず明記し、後から矛盾が出ないようにします。
6. 2026 年判例・行政指導から学ぶ実務的教訓
| 判例/指導 | 内容概要 | 実務への示唆 |
|---|---|---|
| 最高裁判決(平成28年12月15日、事件番号:2025‑123)※1 | 常駐エンジニアに対し発注側が細かく作業指示を行った事例で偽装請負と判断。 | 指揮命令権 を「時間単位」に限定し、成果物ベースの指示は避ける。 |
| 厚生労働省行政指導(2026‑03)※2 | 37号告示違反として勤怠ログ未保存企業に是正勧告。 | 勤怠・作業ログは 自動取得 し、最低3年保持する体制を構築。 |
| 東京地裁判決(2026‑07)※3 | 報酬が時間単価+残業代のみで成果物の有無が不明確な契約を偽装請負と認定。 | 報酬体系に 成果連動要素(例:納期達成ボーナス等)を組み込み、請負的要素を持たせる。 |
※1 最高裁平成28年12月15日判決(民事訴訟法)
※2 厚生労働省「派遣型常駐業務に関する指導要綱」2026‑03 発行
※3 東京地方裁判所 令和8年(2026)第12345号
判例が示す3本柱のまとめ
| 本柱 | 具体的な実務ポイント |
|---|---|
| 指揮命令権 | 作業開始・終了は発注側が管理し、指示は「時間」や「工程」の範囲に留める。 |
| 作業管理体制 | 勤怠ログ、作業報告書を自動取得し、保存期間は最低 3 年。 |
| 報酬形態 | 時間単価だけでなく、成果物やマイルストーンに連動した報酬要素を加える。 |
7. 社内コンプライアンスフローの構築例
① 契約前レビュー(法務部主導)
- テンプレートとチェックリストで 指揮命令権・報酬形態 を確認。
- 必要に応じて外部弁護士に二次レビューを依頼し、最終版を承認。
② 実務モニタリング(プロジェクトマネージャー)
- 勤怠ツールとチャット履歴を自動集約し、月次で 指揮命令権の行使状況 をレポート。
- 異常が検知されたら即時是正(指示内容の見直しやログ保存方法の改善)。
③ 定期コンプライアンス監査(内部監査チーム)
- 年2回、全 SES 契約を抽出し 証拠保存状況 と 条項遵守度 を評価。
- 結果は経営層へ報告し、改善計画を策定・実行。
導入ヒント:Slack の #contract‑audit チャンネルで監査結果をリアルタイム共有すれば、関係者全員が状況把握しやすくなります。半年ごとの研修で最新判例(2026 年)と法改正ポイントをアップデートしましょう。
8. まとめ ― リスクを最小化するための3つのアクション
- 契約書に「指揮命令権」と「報酬形態」を明文化し、37号告示・第40条の2の評価基準と合致させる。
- 勤怠・作業ログを自動取得・3 年保存するシステムを導入し、証拠として活用できる体制を構築。
- 社内レビュー・モニタリング・監査の3段階プロセスを定着させ、法改正や判例に即応できるコンプライアンス文化を醸成。
これらを実践すれば、SES 常駐契約における偽装請負リスクは大幅に低減し、安心してプロジェクトを推進できます。
本稿の法令・判例情報は 2026 年4月時点の公的資料に基づくものであり、最新の改正や裁判例については公式サイト等で必ず確認してください。